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大阪高等裁判所 平成5年(行コ)40号 判決 1995年6月20日

京都市中京区河原町二条下ル一之船入町三六六番地

控訴人

株式会社窪田

右代表者代表取締役

窪田操

右訴訟代理人弁護士

山崎晴夫

田中駿介

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

島田睦史

的場秀彦

小山雅之

小富士晋一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  原判決事実及び理由欄「第一 請求」記載のとおり。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一  事案の概要は、原判決三頁八行目の「である。」の次に「仮にそうでなくても、右法人税の基礎となった所得額の算定には錯誤が存在する(当審新主張)。」を、同五頁五行目の「した」の次に「(以下「本件修正申告」ともいう)」をそれぞれ加えるほかは、原判決事実及び理由欄「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審主張

1  控訴人

(一) 憲法二九条一項、三項違反について

正当な立法目的を達成する課税であっても、課税権の行使は無制限ではない。財産権を保障する憲法二九条の趣旨に照らし、法人において、健全な企業経営を継続しつつ国家のため納税義務を果たすためには、所得に対する税金の割合は九〇パーセントを限度と考えるべきである。土地重課規定は、地価の高騰を抑制するという立法目的があり、かつ土地重課制度の導入を要する状況もあるので、右立法目的に合理性があるといえるとしても、土地については、他の財産と比較して、税引後の譲渡益の絶対額も大きいと言えるが、土地重課規定の適用により、法人税、事業税、府民税、市民税その他の税金が所得の九〇パーセントを超えて課税される結果となり(本件当時の地方税法三七条の三所定の所得税賦課制限(課税総所得額の七八パーセント)を超えている)、法人の事業の継続ないし存立を危うくする程度の所得課税となり、ひいては実質的に土地譲渡を禁止するとの同様の効果を有するから、課税としての合理的な程度を超えており、土地重課規定は憲法二九条一項、三項に違反する。

(二) 予備的請求原因(当審新主張)

(1) 本件修正申告の基礎となった修正損益計算書の期首棚卸高七五億六五四四万四三二九円は誤記であり、昭和六一年六月三〇日終了事業年度との法人税確定申告書控添付の貸借対照表(乙五)記載の七六億一三二六万三八七三円(棚卸建物二億四八二三万四四五七円及び棚卸土地七三億六五〇二万九四一六円の合計)が正しいので、右差額四七八一万九五四四円につき所得が減額されるべきである。

(2) 控訴人は、本件修正申告にあたり、下記各取引に関して支出した合計三億九二〇〇万円の簿外経費を必要経費として所得から控除すべきところ、これをしなかった。

ア 昭和六〇年一二月から昭和六二年一月にかけての大阪市南区宗右衛門町所在の不動産の購入、再開発及び転売について、小林敬武(以下「小林」という)に対し、円滑な推進を依頼して、その頃、報酬合計一億二五〇〇万円を支払った。

イ 昭和六〇年一一月から昭和六一年一〇月にかけての京都市中京区新京極六角所在及び同市同区三条通寺町東入石橋町所在の各不動産の購入、再開発及び転売について、小林に対し、円滑な推進を依頼して、昭和六〇年一一月から昭和六一年一〇月までの間に、報酬合計一億一七〇〇万円を支払った。

ウ 昭和六一年九月の京都市伏見区深草下横縄町所在の不動産の購入後の再開発について、小林敬武に対し、円滑な推進を依頼して、同月から昭和六二年五月までの間に、報酬合計一億五〇〇〇万円を支払った。

(3) 前記(1)及び(2)はいずれも錯誤に基づくものであり、かつ右錯誤は客観的に明白かつ重大であって、租税法規に定められた手続によることを要求したのでは納税義務者の利益を著しく害すると認めるべき特段の事情がある。

2  被控訴人

(一) 予備的請求原因事実はいずれも否認する。

(二) 控訴人主張の貸借対照表記載の棚卸高は控訴人本社のみの棚卸高であるから、同社の二店舗の原材料棚卸高合計一三九万七三〇一円を加算し、かつ右貸借対照表記載の支払利息四九二一万六八四五円は、棚卸土地勘定に本来加算すべきでないから、これを減算すべきであり、本件修正申告の棚卸高七五億六五四四万四三二九円が正しい。

(三) 控訴人が仮に簿外経費を支出したとしても、控訴人は、その主張にかかる各支払を行ったことを前記修正申告時に認識しながら、修正申告において申告しなかったものであり、錯誤は存在せず、所得金額としてすでに不可争効が生じていると解されるから、右各支払を行ったことを主張することはできない。

(四) 仮に控訴人主張の錯誤が認められるとしても、確定申告書の記載内容の過誤の是正は、原則として、租税法規に定められた手続によってなしうるものであって、例外的に、当該錯誤が客観的に明白かつ重大であって、右手続によることを要求したのでは納税者の利益を著しく害すると認められるような特段の事情がある場合にのみ、錯誤無効の主張が許されるべきであるところ、本件においては、控訴人は、経費の存在につき所得申告の時点で自ら把握すべきものであり、かつ申告を修正する機会も十分に存したのであるから、右特段の事情があるとはいえない。

第三争点の判断

一  争点の判断は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 争点の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三四頁八行目の次に以下のとおり加える。

「また、控訴人は、当審主張1(一)のとおり主張し、北野弘久作成の鑑定所見書(甲六一)には同旨の所見が認められるが、前判示のとおり、土地重課規定は立法目的に合理性があり、かつ右目的を達成する手段として著しく不合理なものとは言えず、法人は、土地重課規定に基づく課税の可能性を含む経済的判断に基づいて、土地に関する投資もしくは投機を行うものであることを併せ考えると、不動産を取得した法人に対してのみ厳格な条件の下で課税を行う土地重課規定の適用により、地方税法三七条の三所定の一般的な所得税賦課制限を超える結果となったとしても、そのことだけでは課税としての合理的な程度を超えており、法人の事業の継続ないし存立を危うくする程度の所得課税となるとは言えず、土地重課規定が、法人に対し、一般的に当然受認すべきものとされている制限の範囲を超えて、財産上特別の犠牲を課するものとは言えないから、右鑑定所見書の所見は採用できず、右主張は理由がないというべきである。」

2  原判決三六頁四行目の次に以下のとおり加える。

「五 予備的請求原因について

控訴人は、当審主張(二)のとおり主張するが、本件全証拠によっても、同(1)及び(2)の事実を認めることはできないので、右主張は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。」

二  以上によれば、控訴人の請求は失当であり、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒田直行 裁判官 古川正孝 裁判官 三谷博司)

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